外郎売り(読み)
せっしゃ
おやかたともうすは、
おたちあいのうち(なか)に、
ごぞんじのおかたもござりましょうが、
おえどをたってにじゅうりかみがた、
そうしゅうおだわらいっしきまちをおすぎなされて、
あおものちょうをのぼりへおいでなさるれば、
らんかんばしとらやとうえもん、
ただいまはていはついたして、
えんさいとなのりまする。
がんちょうより
おおつごもりまで、
おてにいれまするこのくすりは、
むかしちんのくにのからびと、
ういろうというひと、わがちょうへきたり、
みかどへさんだいのおりから、
このくすりをふかくこめおき、
もちゆるときはひとつぶづつ、
かんむりのすきまよりとりいだす。
よってそのなをみかどより、
とうちんこうとたまわる。
すなわ(は)ちもんじには、
「いただき、すく、かおり」とかいて
「とうちんこう」ともうす。
ただいまはこのくすり、
ことのほかせじょうにひろまり、ほうぼうににせかんばんをいだし、
いや、おだわらの、はいだわらの、さんだわらの、すみだわらのと、
いろいろのもうせども、
ひらがなをもって「ういろう」としるせしは
おやかたえんさいばかり。
もしやおたちあいのうちに、あたみかとうのさわへとうじにおいでなさるるか、
またはいせさんぐうのおりからは、かならずかどちがいされますな。
おのぼりならばみぎのかた、おくだりなればひだりがわ、
はっぽうがやつむね、おもてがみつむねぎょくどうづくり、
はふにはきくにきりのとうのごもんをごしゃめんありて、
けいずただしきくすりでござる。
いやさいぜんよりかめいのじまんばかりをもうしても、
ごぞんじないかたには、しょうしんのこしょうのまるのみしらかわよふね、
さればひとつぶたべかけて、
そのきみあいをおめにかけましょう。
まずこのくすりをかようにひとつぶしたのうえにのせまして、
ふくないへおさめますると、
いやどうもいえぬは、いっしんはいかんがすこやかになりて、
くんぷうのんどよりきたり、こうちゅうびりょをしょうずるがごとし、
ぎょちょう、きのこ、めんのくいあわせ、そのほか、
まんびょうそっこうあることかみのごとし。
さて、このくすり、だいいちのきみょうには、
したのまわることが、ぜにごまがはだしでにげる。
ひょっとしたがまわりだすと、やもたてもたまらぬじゃ。そりゃそら、
そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるわ。
あわやの(ん)ど、さたらなしたにかげさしおん、
はまのふたつはくちびるのけいちょう、かいごうさわやかに、
あかさたなはまららわ、おこそとのほもよろを、
ひとつへぎへぎに、へぎほしはじかみ、
ぼんまめぼんごめ、ぼんごぼう、つみたで、つみまめ、つみざんしょ、
しょしゃざんのしゃそうじょう、
こごめのなまがみ、こごめのなまがみ、こんこごめのこなまがみ、
しゅすひじゅす、しゅす、しゅちん、
おやもかへえ、こもかへえ、おやかひこかへい、こかへいおやかへい、
ふるくりにきのふるきりく(ぐ)ち。
あまがっぱか、ばんがぱか、きさまのきゃはんもかわぎゃはん、
われらがきゃはんもかわぎゃはん、
しっかわばかまのしっぽころびを、みはりはりなかにちょとぬうて、
ぬうてちょとぶんだせ、かわらなでしこ、の ぜきちく。
のらにょらい、のらにょらい、みのらにょらいにむのらにょらい。
ちょっとさきのおこぼとけにおけつまずきゃるな、
ほそどぶにどじょにょろり。
きょうのなまだらならなまがつお、ちょっとしごかんめ、
おちゃたちょ、ちゃたちょ、ちゃっとたちょ、ちゃ たちょ、
あおだけちゃせんでおちゃちゃとたちゃ。
くるはくるはなにがくる、こうやのやまのおこけらこぞう。
たぬきひゃっぴき、はしひゃくぜん、てんもくひゃっぱい、ぼうはっぴゃっぽん。
ぶぐ、ばぐ、ぶぐ、みぶぐばぐ、あわせてぶぐ、ばぐ、むぶぐばぐ。
きくくり、きくくり、みきくくり、あわせてきくくりむきくくり、
むぎ、ごみ、むぎ、ごみ、みむぎごみ、あわせてむぎ、ごみ、むむぎごみ。
あのなげしのながなぎなたは、たがながなぎなたぞ。
むこうのごまがらは、えのごまがらか、あれこそほんのまごまがら。
がらぴい、がらぴいかざぐるま、
おきゃがれこぼし、おっきゃがらこぼうし、ゆんべもこぼしてまたこぼした。
たぷぽぽ、たぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、
たっぽたっぽのいっちょうだこ、おちたらにてくうを、にてもやいてもくわれぬものは、
ごとく、てっきゅう、かなくまどうじに、いしくま、いしもち、とらくま、とらきす、
なかにも、とうじのら しょうもんは、
いばらぎどうじがうでぐりごんごうつかんでおむしゃるかのらいこうのひざもとさらず。
ふなきんかん、しいたけ、さだめてごたんな、そばきり、そうめん。
うどんかぐどんなこしんぼち。
こだなの、こしたの、こおけに、こみそが、こあるぞ、
こしゃくし、こもって、こすくって、こよこせ、
おっとが ってんだ、
こころえたんぼのかわさき、かながわ、ほどがや、
とつかをはしって、ゆけばやいとをすりむく、
さんりばかりか、ふじさわ、ひらつか、おおいそがしや、
こいそのしゅくをななつおきして、
そうてんそうそう、そうしゅうおだわらとうちんこうかくれござらぬ
きせんぐんじゅ(しゅ)のはなのおえどのはなういろう。
あれあのはなをみておこころをおやわらぎやという。
うぶこはうこにいたるまで、
このういろうのごひょうばん、ごぞんじないとはもうされまいまいぶり、
つのだせ、ぼうだせ、ぼうぼうまゆに、
うす、きね、すりばち、ばちばちぐわらぐわらぐわらと、
はめをはずしてこんにちおいでのいずれもさまに、
あげねばならぬ、うらねばならぬと
いきせいひっぱり、
とうほうせかいのくすりのもとじめ、
やくしにょらいもしょうらんあれと、
ほほうやまって、ういろうは、いらっしゃりませぬか。
関連ページ
- 外郎売り(本文)
- HP内でご紹介しました美文字に関する文書です。